高齢者や障がいをお持ちの方にとって「歯医者に通う」ことは大きな負担です。
そんな中、自宅や施設で歯科治療が受けられる訪問歯科が注目されています。しかし、「どんな治療ができるの?」「費用はいくら?」「トラブルは起きないの?」といった疑問や不安も多いのではないでしょうか。
本記事では、訪問歯科を受けるうえで気をつけるべきポイントを完全網羅。
制度や費用の仕組みから、受診準備・当日の流れ、トラブル対策、チーム選びのコツまで、患者・家族・施設スタッフそれぞれの立場で役立つ情報を整理しました。
この記事を読めば、訪問歯科の導入がスムーズになり、安心して口腔ケアを進める第一歩が踏み出せます。
訪問歯科の基礎知識

訪問歯科は歯科医師と歯科衛生士が自宅や施設へ赴き外来相当の治療と口腔ケアを提供する在宅サービスです。制度・費用・対象条件を理解し、安心して活用しましょう。
訪問歯科の目的と診療内容
訪問歯科の目的は「口腔機能の維持を通じて生活の質を守る」に尽きます。咀嚼や嚥下が低下すると低栄養や誤嚥性肺炎が起きやすく、全身状態が急速に悪化します。そこで歯科医師チームは以下の処置を組み合わせ、健康悪化を未然に防ぎます。
- むし歯処置、歯周病管理、義歯調整
- 口腔ケアと嚥下リハで誤嚥リスク軽減
- 疼痛管理と栄養指導で食事満足度向上
結果として「食べられる」「話せる」が保たれ、在宅生活の負担が減ります。
対象患者と訪問先の原則
訪問歯科を受けられるのは「自力通院が難しい人」で、医療機関から半径16km以内に居住する場合です。該当例は以下です。
- 寝たきり高齢者
- 重度障害で公共交通が使えない人
- 退院直後で歩行が不安定な回復期患者
訪問先は自宅、特別養護老人ホーム、サービス付き高齢者向け住宅、グループホームなど居室が生活の場になっている場所に限定されます。距離と通院困難の要件を満たすか確認して依頼しましょう。
訪問診療と往診・外来の違い
訪問診療は計画的に行う定期診療、往診は急変時の臨時対応、外来は来院型治療です。
- 訪問診療:月1〜2回の義歯ケア・口腔清掃を計画実施
- 往診 :夜間急性歯痛への応急処置で臨時出動
- 外来 :CT撮影や外科手術を院内ユニットで実施
診療報酬区分が異なるため費用も変わります。目的に合わせて適切な枠組みを選び、不要な支払いを避けましょう。
訪問歯科でできること・できないこと一覧
訪問歯科は携帯機材で行える保存的処置と口腔ケアが中心です。高出力機器や無菌手術が必要な治療は外来へ紹介します。
分類 | できる処置 | できない処置 |
保存治療 | むし歯充填・義歯調整 | 大臼歯根管長測定・矯正 |
口腔ケア | 歯石除去・ブラッシング指導 | ― |
外科 | 小範囲抜歯 | 顎骨嚢胞摘出・インプラント |
検査 | 携帯レントゲン撮影 | CT撮影 |
限界を理解し、必要時は速やかに外来と連携する判断が重要です。
制度と費用の全体像

医療保険と介護保険の適用範囲、診療報酬点数、自己負担の計算手順、請求書の確認方法、2025年改定の方向性を整理し、金額面の疑問を先回りで解決しましょう。
医療保険と介護保険の違いと仕組み
訪問歯科の費用は「治療は医療保険」「在宅支援は介護保険」に分かれます。
医療保険では外来と同じ一〜三割負担、介護保険では居宅療養管理指導が月額上限で計算されます。例えばむし歯充填は医療保険、日常の口腔ケアは介護保険に振り分けられ、二重請求を防ぐカギは施術内容の整理です。
診療報酬・加算の種類と算定方法
訪問歯科は基本点数に加えて加算が上乗せされ、条件ごとに金額が変わります。主な加算は次のとおりです。
加算名 | 条件 | 点数 |
歯科訪問診療料 | 一回訪問 | 1,100 |
歯科衛生士同行加算 | 衛生士の同席 | 355 |
特別対応加算 | 感染症対応・障害重度など | 100 |
算定は「患者一人あたり一日一回」が原則です。訪問記録と同意書を整えれば、重複計上を防げます。
自己負担額の目安と費用シミュレーション
自己負担は点数×10円×負担割合で計算します。一回あたりの目安は千円台から四千円台です。
- 医療保険一割・基本料のみ → 約1,200円
- 医療保険三割・衛生士同行 → 約3,800円
- 介護保険・月二回利用 → 月額上限5,000円前後
事前にシミュレーターへ点数と負担割合を入力し、おおよその請求額を家族へ共有すると安心です。
請求書の内訳チェック&高額になる理由
請求明細では点数単位まで確認します。注意点は三つ。
- 加算が複数重複していないか
- 半径16km超の交通費が計上されていないか
- 1日2回分の訪問診療料が載っていないか
高額になる典型例は「衛生士2名同行」「頻回訪問」「特別対応加算の連続算定」です。疑問があれば領収書の点数を示しながら問い合わせましょう。
体調・動線・照明などの現場チェックポイント
- 体温37.5度以下、脈拍50〜100、血圧上限160 / 下限90
- ベッド左右15 cm以上の空間確保
- 通路幅70 cm、段差ゼロを確認
- 卓上LEDライトを口元15 cmに配置
- 延長コードは三重巻き禁止、直結使用
- 窓を10 cm開けて換気、エアコンは弱風設定
- ペット同室を避け、換毛が口腔へ入らないよう配慮
診療後のフォロー(義歯管理・予約・口腔評価)
- 義歯洗浄:流水+義歯ブラシ30秒、就寝前に再洗浄をリマインド
- 粘膜チェック:頬粘膜と舌下を写真撮影し記録アプリへ保存
- 口腔評価シート更新:プラーク指数・舌苔量を記入
- 予約確定:来月第1・第3火曜14時、家族LINEへ自動通知
- 新痛点が出た場合は48時間以内に連絡を依頼
- 使用薬剤リストを薬剤師へメール添付、飲み合わせを確認
メリットとデメリット

訪問歯科は「動かずにケアを受けられる便利さ」と「機材・時間が限られる難点」がセットになっています。両方を天秤に掛けて、自分に合った利用方法を決めましょう。
訪問歯科を選ぶメリット
もっとも大きな価値は“移動ゼロ”で専門ケアが届くこと。
- 移送ストレスがない 車いす移動やタクシー予約が不要になり、付き添い家族の一日が空く
- 誤嚥性肺炎の予防に直結 専門家による徹底清掃で口腔内細菌を抑え込みやすい
- 義歯を即時調整 その場で削り直しができるため噛むときの痛みが即解消
- 笑顔と会話が増える 食事と発話がラクになり、表情が柔らかくなる
- チームでの情報共有が簡単 看護師や管理栄養士と同席し、その場でケア方針を決めやすい
- 院内感染を避けやすい 混雑した待合室を経由しないのでインフルエンザや新型コロナのリスクが下がる
移動が難しい高齢者にとって、生活の質を底上げする切り札になり得る。
訪問歯科が抱えるハードル
ネックは「できる治療が限られる」ことと「費用・時間がかさむ」こと。
- 大型機器を使う治療は不可 CT撮影やインプラントなどは院内に行く必要がある
- 緊急対応は搬送前提 大量出血などイレギュラー時には救急車が最短ルート
- 料金が外来より高め 衛生士同行加算や交通費が上乗せされやすい
- 居室レイアウトの調整が必須 狭い部屋では機材を置くスペースが足りず診療開始が遅れる
- 予約枠が少ない 移動距離とスタッフ数の兼ね合いでキャンセル振替が難しい
- 音と光の配慮が必要 ポータブルユニットの作動音やLEDライトが周囲に響く
外来診療と組み合わせる前提で考えるとリスクが縮まる。
メリットを活かし弱点を抑える6つの工夫
訪問と外来を役割分担させ、準備を整えれば“いいとこ取り”ができる。
訪問は日常ケアに集中し、外来でしかできない検査・手術を補完するから。
- ハイブリッド受診 年1度は外来でCTを撮り、詳細診断を補強
- 救急マニュアルの共有 主治医・家族・訪問医が同じ搬送基準を持つ
- 見積書を事前送付 LINEやメールで加算内訳を説明し、費用トラブルを回避
- 簡易診療キットを常備 折り畳みテーブルと小型ライトで設営5分短縮
- 固定スケジュール 曜日と時間を決め、毎月の調整コストを削減
- 低騒音+防振対策 静音設計のユニットとマットで近隣への配慮を徹底
「外来で精査、訪問でメンテナンス」を軸にすれば、長期的な口腔管理がラクになる。
トラブルを未然に防ぐマニュアル

典型的なトラブルと未然防止策
トラブルは〈金額・時間・交代・体調・感染〉の5カテゴリーで考えると整理しやすい。
起きやすい出来事 | 事前に取れる手 |
請求額のズレ | 前日に明細をLINEで確認し合意を取る |
到着が遅れる | 15分前に SMS で到着予告+代替時刻も提示 |
衛生士交代で手順乱れ | 標準手順書へサイン、交代前にロープレ実施 |
血圧急上昇 | バイタル測定し、異常値なら主治医へ即連絡 |
同室者の発熱 | 玄関で検温し、発熱者は別室へ誘導 |
まとめ
訪問歯科は、通院が難しい人のQOL(生活の質)を守る有力な選択肢です。移動せずに専門ケアが受けられるメリットは非常に大きい一方で、費用や診療範囲、感染対策などの注意点もあります。
大切なのは、制度を正しく理解し、信頼できるチームと連携して「準備→受診→フォロー→評価」までを一貫して行うことです。
本記事で紹介したチェックリストや比較シート、KPIを活用すれば、初めての方でも失敗を防ぎやすくなります。
まずは、書類の整理とチーム選びから始めてみましょう。将来の安心と健康な暮らしのために、訪問歯科を前向きに活用していきましょう。
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この記事を監修した人
